
ごきげんよう。
お嬢様の栗ノ宮 綾音(くりのみや あやね)ですわ。
前々々回の記事では、ホロウナイトにおける生命の血の性質を辿り、魂が流体となって生と死をめぐる“魂の循環構造”に触れましたの。
そして生命の血の循環を支えるムシたち――青き子供ジョニ、アビスクリーチャーの在り方を見つめてまいりましたわ。
最後に、生命の血とハイブの関係性を探ってまいります。
チャーム『ジョニの祝福』と『ハイブの血』の特異な相互作用、そしてアップデート『Lifeblood』で追加されたボス『ハイブの騎士』。
なぜハイブが生命の血と結びつきを持つのか――その謎について、ともに思索を巡らせてまいりましょう。


- ハイブの蜂の生態
- ハイブの蜂蜜の正体
- ハイブと生命の血との関係
ハイブとは何か?|黄金に輝く蜂たちの王国
ホロウナイトにおけるハイブとは、黄金色に輝く蜂の巣のことですの。


王国のはずれにひっそりと築かれたその巣箱は、独自の美しさを宿しておりますわ。
しかしこのハイブは、見た目の華やかさとは裏腹に、他のムシたちとは明らかに異なる生態を持つ存在でもあります。
まずは、ハイブの基本的な在り方――その生態と集団の特徴から整理してまいりましょう。
ハイブの特異な生態
蜂は通常、卵から生まれ、幼体、サナギを経て成体へと成長します。
ゆえに、一般的な蜂の巣には、多くの幼虫が存在するものです。
しかしハイブでは、そのような幼虫の姿は一切見当たらず、確認できるのは成体となった蜂のみでございます。
そして、ハスクハイブやハイブの騎士の体内から成体が生まれる様子が描写されておりますの。
この点から、ハイブの蜂は一般的な成長過程を経ずに、成体として現れる存在であると考えられますわ。


さらに、その蜂の体内は“黄金の液体で満たされている”と記されております。
Their hairy little bodies are filled with a thick, sweet, golden liquid.
― 狩猟者の書 ハイブリンク
お嬢様的意訳:毛むくじゃらの小さな体は、濃厚な、甘い黄金の液体で満たされております。
蜂に関連する『濃厚な甘い黄金の液体』といえば、蜂蜜以外に考えられません。
つまりハイブの蜂は、蜂の体内を蜂蜜で満たすことにより、新たな生命を得ていると考えられるのです。
生命を成立させる媒介が蜂蜜であるならば、蜂蜜は生命の血と同質の役割を担っていると見ることもできますわ。
女王ヴェスパ―蜂の意思を束ねる存在
ハイブの蜂は、生まれながらに群れとしての意識が強く、その生涯を巣箱と女王を守ることに捧げております。
高潔でありながら、その徹底ぶりは、しばしば“奴隷的”とも形容されておりますの。
Some creatures are born with duties and loyalties marked indelibly upon their minds.
―狩猟者の書 ハイブの騎士
They are strong, but they are also slaves.
お嬢様的意訳:消えることのない義務と忠誠を心に深く刻まれて生まれてくる者たちがおりますの。彼らはとてもお強いのですが、自由を持たない奴隷のような存在でもありますわ。
そこまで群れとしての意識が強いということは、逆に言えば――“個”という概念が、極めて希薄であるということですわ。
そしてそんな彼らの在り方を束ねている存在が、ハイブ最奥に佇む女王ヴェスパでございます。
彼女は既に亡くなっておりますが、その意思との対話からは、ハイブという集団が何を是とし、何を拒んできたのかを、わずかに読み取ることができますの。


わたしの騎士…少なくともあなたは自由になった。
― ハイブの女王 ヴェスパ
小さき者よ。わたしはあなたの類についてよく知っています。
― ハイブの女王 ヴェスパ
あなたが自らの過去を解決したいと望むのであれば、わたしはあなたが求める女王ではありません。
あなたのような者が誕生した責任は”蒼白なる者”にあります。
わたしたちのこの巣はハロウネストの中にありますが、あの王国を永続させようという試みに、わたしたちは一切関与していません。
自然の理に逆らうのは愚行です。
― ハイブの女王 ヴェスパ
あらゆるものは終わりがくることを受け入れねばならないのです。
これらの言葉からは、次のようなことが見えてまいりますわ。
- 女王の意思で、蜂を群れに縛っているわけではない。
- 器や蒼白といった、古代的な知識体系を理解している。
- 蒼白の王ウィルムの思想に与せず、ハロウネストに属していない。
- 自然の理と終わりを、当然のものとして受け入れている。
いにしえの時代から、強固な集団意識を貫き、巣箱と女王を守り続けてきたハイブの蜂たち。
彼らが女王の意思によって使役されているのではないなら――蜂たちは、いったい何のために群れを成し、何を運び続けているのでしょうか。
その答えは、ハイブに満ちる蜂蜜と、それが果たしている役割に目を向けたとき、静かに浮かび上がってまいりますの。
ハイブの役割|蜜蜂は命を運ぶ
ハイブの蜂たちが何のために集団として存在し、何を巣箱へと運び入れているのか――その答えを探る鍵は、ハイブに満ちる黄金色の蜂蜜にございます。
蜜蜂は、ただ巣を維持するために働いているのではありません。
彼らはこの世界において、命そのものを運ぶ役割を担っているように見えるのです。
ここからはハイブが果たしている役割――蜜蜂が何を運び、何を循環させているのかについて、考えてまいりましょう。
チャーム『ハイブの血』の効果とその意味
チャーム『ハイブの血』が持つ最大の特徴は、“最後に受けたダメージのみが、自動的に回復する”という点にございます。
この自動回復にソウルや生命の血などの外部資源は不要であり、黄金色の仮面の内側からじわじわと、命が湧き出しますの。
ホロウナイトの世界では、きわめて異質な挙動ですわ。
チャームの説明文には、“ハイブの貴重な液体が凝固してできた、金色の塊”と記されております。


液体とは言うまでもなく、ハイブに満ちる蜂蜜を指しているのでしょう。
すなわち『ハイブの血』とは、蜂蜜という生命資源を結晶化したものであると読み取れますの。
回復時の演出もまた、この解釈を裏づけております。
中心から黄金色の液体が湧き出して滴り、六角形のハニカム構造を描いて凝固するのです。


六角形は自然界において、生命を無駄なく保持して循環させるための、もっとも合理的な器として知られる形。
自然が選び取った最適構造であり、個を切り離すのではなく、全体として成立させる形でもあります。
つまり『ハイブの血』による回復とは単なる治癒ではなく、ハイブの生命体系――蜂蜜によって生命を満たし、生命を循環させる仕組み――その一部を、装備者の身体に組み込む行為であると考えられるのですわ。
この視点から見ると、『ハイブの血』を装備している間、ハイブの蜂が敵対しない理由も説明がつきますの。
蜂たちは、同じ生命体系に属しているか否かという判別をしているのではないかしら。
蜂蜜を宿す者は異物ではなく、ハイブの一部として認識される――このように考えると、蜂たちの挙動は一貫しております。
ゆえに蜂蜜は、性質こそ異なれど――生命を満たして循環させるという点において、生命の血ときわめて近しい役割を持っていると考えられますわ。
蜂蜜は『生命の血』の加工品
ハイブに満ちる蜂蜜の“生命を満たし、留める力”は、生命の血と深く響き合っております。
体内を満たし、一匹の蜂や黄金の仮面という生命を形づくる蜂蜜。
膜を満たし、青き仮面というひとつの生命を生み出す生命の血。
色や形こそ異なれど「命を成立させる」という点において、きわめてよく似ておりますわ。
この共通性から「蜂蜜とは、生命の血を加工したものではないか」――そのようなひとつの仮説が、静かに導き出されますの。
そしてその仮説を裏付けるかのように、蜂蜜と生命の血の花粉には、映像的な演出の一致が見られます。


魂の化身ともされる蝶を象ったその花は、微量の青き蜜――すなわち、生命の血を含んでいると考えられます。
ハイブの蜜蜂たちが、この生命の血の花から蜜を集め、それを蜂蜜へと加工しているのだとすれば――蜂蜜が生命の血と似た性質を帯び、命を形づくる力を持つことも、自然な帰結といえますわね。
生命の血の花は、魂の営みの中で、自然に咲いたもの。
それに対して蜂蜜は、ハイブの蜂たちが集団として働き、 時間をかけて生成し、巣に蓄えたものですわ。
つまりここには、
- 生命の血:ありのままの姿の生命
- 蜂蜜:加工され、留められた生命
という、明確な違いがございますの。
では、なぜ加工が必要だったのでしょうか。
生命の血は、きわめて流動的で失われやすい存在です。
青き繭や仮面が示すように、個人が一時的にしか宿せない力――個のための生命でございますわ。
しかしハイブの蜂たちは、個としてではなく、共同体として生きることを選んだ存在です。
命を分かち合い、ハイブという共同体を維持するためには、流れ去る生命を留める形へと変える必要があったのですわ。
そのために生命の血は、蜂蜜という形へと加工された――そう思わせるだけの理由が、確かに存在しておりますの。
黄金色が象徴するもの
黄金色は、太陽や金に結びつく色であり、多くの文化において不滅の輝き・繁栄・永続性を象徴してまいりました。
この象徴性を踏まえるならば、青い生命の血を黄金色の蜂蜜へと加工する行為には、やはり深い意味が伴っているように思われますわ。
流動を象徴する青色の生命の血は、未分化で、留めることのできない生命。
それを蜂蜜という固体へ変え、さらに黄金色を帯びさせることで、生命に永続性と繁栄の属性が与えられた――そう解釈することもできるのではないかしら。
実際、黄金の仮面は時間とともに自律的な回復を行い、ハイブでは蜂が絶え間なく生成され続けております。
これは、単に生命が補われているのではなく、保たれ、増え、継続する仕組みが成立していることを示しておりますわ。
この発想は、ホロウナイトの世界に限ったものではございません。
古代ケルトやキリスト教の伝承においても、蜂蜜や蜂蝋は魂を保存し、再生を助ける力を持つものとして扱われてまいりました。
蜂蜜は腐りにくく、時間を超えて性質を保つ物質でございます。
ゆえに、蜂蜜は命や魂を「留める器」として象徴的な意味を与えられてきたのですわ。
ハイブの蜂蜜もまた、流動する生命の血を共同体の中で保持し、繁栄へとつなげるための媒介でございます。
黄金色は、その思想を視覚的に示す成熟した生命の色なのかもしれませんわね。
しかし、忘れてはならないのは――ハイブが永遠を目指していないという点です。


黄金色は不滅を象徴しますが、それは「終わりを拒む」こととは異なります。
女王ヴェスパが語るように、ハイブは自然の理と、終わりそのものを受け入れておりますわ。
ゆえに、ハイブの蜂蜜が帯びる黄金色は、『永遠に固定された生命』ではなく、『終わりを前提としたうえで、最も安定した形へと整えられた生命』――そのような意味を示す色だと考えることができますの。
生命の血とハイブが結びつく理由
ここまでの考察を踏まえると、生命の血とハイブが結びつきを持つことは、とても自然なことのように思われますの。
その理由を整理すると、大きく2つにわけることができますわ。
① 花と蜂―受粉を介した共生関係
花は、咲くだけではその役割を完結できません。
命をつなぐためには、実を結び、種を広げる必要がございます。
そのために欠かすことのできない過程が、受粉です。
自然界において、受粉を助けている存在こそが蜂でございます。
蜂は蜜を集めながら花粉を運び、花と花とを結びつける役割を担っておりますわ。


ハイブの蜂たちもまた、生命の血の花から蜜を採取する存在です。
その行為は単なる採取にとどまらず、命の情報を運び、広げる働きと見ることができますの。
生命の血には2つの拡散経路が存在しておりますわ。
ひとつは、蝶の姿を取った生命の血の花が、時が満ちると羽ばたき、自ら世界へと散っていく経路。


もうひとつは、ハイブの蜂たちが蜜を集め、それを蜂蜜へと加工し、別の形で命を広げていく経路です。


自然界における花と蜂の共生関係とよく似たこの構造は、生命の血が世界を巡るための重要な循環を支えているように見えますわ。
生命の血は、ハイブという存在を通過することで、世界に広がり、次の命へと受け渡されていくのです。
この一点において、ハイブは生命の血にとって欠かすことのできない存在であり、また――自らが流れ着き、形を得ることのできる、数少ない行き先のひとつだったとも考えられますのよ。
② ハイブ内部に成立する、命の循環―相互依存の関係
生命の血とハイブが結びつくもうひとつの理由は、ハイブの内部に成立している独自の生命循環にございます。
生命の血は、流動的で、個が一時的に宿すことしかできない命。
それは、留めることを前提としない力ですわ。
しかしハイブでは、それが蜂蜜という形に加工され、巣の中に留められ、共同体全体で分かち合われております。
蜂は生まれ、蜂蜜に満たされ、やがて役割を終える――その過程で蜂蜜は消費され、また生成され、巣の中を巡っていく。
ハイブでは命が一方向に失われることはなく、そしてまた、不自然に留めることもないのです。
形を変えながら、巣という単位の中で完結する循環が成立しているのですわ。
そして同時に、生命の血もまた、ハイブという器を得ることで、より安定した形で世界に関与できるようになった――そのように考えることもできますの。
生命の血とハイブは、一方が一方を利用している関係ではございません。
互いに必要とし合い、互いを成立させる関係にございます。
だからこそ生命の血とハイブの間には、これほどまでに強い結びつきが生まれたのだと考えられるのですわ。
なぜハイブだけが、生命の血と結びつくのか―その在り方と思想
生命の血と結びつく存在は、ハイブ以外にも存在し得たはずです。
ハイブが選ばれた理由は、その在り方そのものにあると思われますの。
ハイブの在り方、そしてそこに通底する思想は、生命の血と相性がよろしいのですわ。
- 個の境界が希薄であること。
- 共同体として存在していること。
- 終わりを受け入れていること。
これらはいずれも、生命の血を受け止めるために欠かすことのできない条件だと考えられます。
循環する魂が融解した、未分化の流体――それが形を得たものこそが、生命の血。
ゆえに、個が強すぎても、個が独占しても、永遠を願っても、生命の血は安定して留まることができないのでしょう。
ハイブは命を永続させることではなく、終わりを含み込んだ循環として受け入れる道を選びましたわ。
命を分かち合い、巡らせ、やがて手放すことを前提とする器。
その条件を満たしていた存在こそが、ハイブだった――そうした帰結に、自然と行き着くのですわ。
総括:魂の循環を担う黄金の一族
本記事では、生命の血とハイブの関係について考察しました。
ハイブの蜂蜜は、生命の血の蜜を加工したものでございます。
流動する青色を、不滅・繁栄を象徴する黄金色へと加工し、共同体の中で扱いやすくしておりますの。
受粉と拡散を助ける花と蜂の関係性、そしてハイブ独自の生命循環。
生命の血とハイブは、まさに相互依存の関係にございます。
蜂たちが選んだ、共同体としての在り方と、終わりを受け入れる思想。
それらが幾重にも重なり合い、ハイブは生命の血を運ぶ器として選ばれたのですわ。
『生命の血』と蜂蜜が同質の流体であり、それが蜂の生命を形づくっているからこそ――かのチャームは『ハイブの血』と名づけられたのかもしれませんわ。
ここまで、ひとつの仮説を紹介いたしました。
お楽しみいただけたなら幸いですわ。



それでは、また別の記事でお目にかかりましょう。
ごきげんよう。










