
ごきげんよう。
お嬢様の栗ノ宮 綾音(くりのみや あやね)ですわ。
前回の記事では生命の血の性質を辿り、魂が流体となって生と死をめぐる”魂の循環構造”に触れましたの。
ここからはさらに踏み込み、生命の血の循環を支えるムシたちへと目を向けてまいります。


本記事では、チャーム『ジョニの祝福』を授けてくださる”青き子供ジョニ”という存在に迫りますわ。
なぜ彼女が『心優しき異端者』と称され、どうして『ジョニの安息所』で眠っているのか――その秘密を、そっと覗いてみることにいたしましょう。
- 青き子供ジョニの正体
- ジョニの祝福の意味
- 生命の血との関係
- 彼女が担う役割
青き子供ジョニの正体|優しくも悲しき獣
Joni is a blue ground beetle and one of the teams’ favourite bugs!
Joni might be dead, but she’s still quite happy.
She wishes the player a safe journey through Hallownest.お嬢様的意訳:ジョニは青いオサムシであり、開発チームのお気に入りのムシのひとりでございます。彼女は既に亡くなっているかもしれませんが、まあまあ幸せそうにしておりますわ。そして、ハロウネストの旅路があなたにとって安全でありますようにと、そっと願っておりますの。
ー Team Cherry(→)
夜の捕食者、オサムシ
ジョニは実在する昆虫、オサムシ(wikipedia)でございます。
オサムシには、次のような特徴がありますの。
- 夜行性で、闇に紛れて活動する。
- 羽が退化し、地表を俊敏に駆け回る。
- 強靱な顎を備え、ミミズやナメクジ、カマキリなどの昆虫まで捕食する。
- 一度決めたら、その種類のムシを食べ続けることがある。
闇夜を切り裂くように走り、鋭い顎で獲物を仕留める姿は、まさしく『夜の捕食者』といえましょう。
ジョニの纏う穏やかで清浄な気配からは想像もつかないほど、荒々しい本能を抱えたムシでございますのよ。


ジョニが『心優しき異端者』と呼ばれた理由


『夜の捕食者』と語られるオサムシですけれど、ジョニ自身は穏やかで、奸智や残虐さとは無縁の心優しきお嬢様。
わたくしには、ジョニが他の昆虫を進んで捕食していたとは、どうしても思えませんの。


そこで考えられるのは、彼女が 生命の血を糧として生きていた という、ひとつの可能性でございます。
たとえるなら現代の菜食主義者のように、生き物を傷つけず、青き生命力のみを受け取って生きていたという可能性もあるのではないかしら。
少なくとも、他の昆虫を追い立てて捕らえる姿より、よほど自然に思い描くことができますわ。
しかし生命の血は、『個の永続』を掲げるハロウネスト王国では忌避される存在であり、王国からは排除されていた可能性すらありますの。
王国の外のムシにとっても、食事を拒み生命の血を求めるジョニの姿は行きすぎた宗教儀式のように映り、理解しがたい振る舞いに見えたはずですわ。
こうして、ジョニは『ムシの社会から外れながらも、信仰を曲げない者』――すなわち、『異端者』とみなされていったのではないでしょうか。
世界の果て、『風鳴りの崖』で眠っていたのも、もしかしたらそうしたムシ同士のしがらみから離れるためだったのかもしれませんわね。
信念をつらぬき、成長できずに子どもままの姿で眠りについた彼女は、まさに『心優しき異端者(the kindly heretic)』 と呼ぶにふさわしい存在だと思いますわ。
生命の血の過剰摂取が招くもの
ジョニが生命の血のみを糧として生きていたといたしましょう。
生命の血を過剰に取りこんだ場合に何が起こるのか――それは“個”という境界の薄まり、すなわち原初への回帰でございます。
順を追ってご説明しますわ。
前記事で考察したとおり、そもそもムシたちの魂は、生命の血と同質の流体から成っている可能性が高こうございます。
ムシが亡くなると魂は流体となって魂の源流(原初の水)に溶け込み、時が満ちると再び、新たな魂として形を取る――
この循環こそが、ハロウネスト世界の根源的な理でございますわ。
そして生命の血とは、この“魂の流体”が物質化したもの――それは”個”であると同時に”自分を形成する前後の自分自身”であり、”世界そのもの”でもあるのです。
それを”食べる”ということは、身体に取り込み、一体化するということ。
小さな身体に多量に抱え込めば、自我を形づくる輪郭は溶けてゆき、より大きな世界の流れへと重なりゆくことになりますわ。
わたくしたちの世界にも、《ego dissolution(自我の融解)→union with the divine / the absolute(絶対者との合一)→mystical union(神秘的合一)》といった宗教哲学の概念があり『再統合』とも呼ばれておりますのよ
個を溶かして世界と融合する――奇しくも、心優しきオサムシ・ジョニは、その神秘的な儀式を完成させてしまったのですわね。
こう考えますと、チャーム『ジョニの祝福』の効果―― 白き仮面(個)を脱ぎ捨て、原初の水脈へと接続して生命の血を呼び込むという特性は、まさに彼女自身の生き方を反映したものと見ることができますわ。


- 強靱な顎を持ち獲物を狩る、肉食の種族オサムシ。
- しかし本人の気質は穏やかで、他者を襲わずに、生命の血を糧として生きていた可能性が高い。
- 生命の血を多く取り込んだことで“個”の輪郭が薄まり、世界の根源――生命の源流(原初の水)にアクセスできる境地へと至った。
生命の血はどのようにして流れるか
生命の血が生まれる場所――アビスの青き祠
ジョニが無意識のうちに辿り着いた”無我の境地”でございますが、実は多くのプレイヤーもまた、同じ領域に足を踏み入れておりますのよ。
黒一色のアビスにおいて唯一の色彩を放つ、謎めいた青き祠。
この扉を開き青の幻想領域を覗くためには、15個以上の青き仮面を備えていなければなりませんの。
多くの生命の血を抱え込むことで、世界の根源へとつながる神秘の扉が開かれる――これはまさに、ジョニが歩んだ道と同じ道筋でございましてよ。


祠の扉を開くことがいかに困難であり、ジョニがどれほど深く生命の血に身を委ねていたのか――そのことは、数字を見れば明らかでございます。
ひとつの青き繭から得られる『命の種』は、わずか2~3個。
その繭は全部で8か所に散在しておりまして、すべてを集めたとしても19個にしかなりませんの。
一般のムシにとって15個以上の青き仮面を備えることはほぼ不可能であり、考えもつかないことなのですわ。
| 王の道 | 2個 |
| 祖先の塚 | 2個 |
| 緑の道 | 2個 |
| 霧の渓谷 | 3個 |
| 胞子の森 | 2個 |
| 暗闇の巣 | 2個 |
| 暗闇の巣 | 3個 |
| 王国のはずれ | 3個 |
主人公とジョニが同じ扉を開いたのだとしたら、この青き祠の正体も姿を現してまいります。
その祠は、『アビスの海』すなわち『生命の源流』のほとりであり、『生命の血』の源泉。
いわば、神々の領域と現実世界がかすかに重なり合う境界地点――アビスから吸い上げられた『生命の源流』が、『生命の血』へと姿を変える場所であると考えられますの。
変換された生命の血が、血管のように巡らせた根を通り、各地で青い繭を実らせているのですわ。


生命の血が流れる、ふたつの条件
状況を整理すると、神々の領域に流れる『生命の源流』が『生命の血』となって現実世界に流れるには、ふたつの条件が重なる必要がありますの。
- 物理的な変換装置
- 夢の領域に深く干渉する力
ひとつずつ、ご説明しますわ。
①物理的な変換装置《心臓》
チャーム『生命の心(Lifeblood Heart)』と『生命の核(Lifeblood core)』の説明文には、次のような一文がございます。
Contains a living core that seeps precious lifeblood.
お嬢様的意訳:尊き生命の血をにじませる、生きた核を宿しております。
― 『生命の心(Lifeblood Heart)』英語版テキスト
ここで用いられる Heart が《脈打つ心臓》を指し、Core が《力の中心・万物を動かす核》を意味することを踏まえますと、
この“生きた核”とは 鼓動する心臓そのもの と考えるのが至極自然でしてよ。
神々の領域を流れる『生命の源泉』は、この心臓という変換器官を通り抜けることで、現実世界にあふれ出る『生命の血』へと世界を変える――そう考えますと、世界の循環構造が結びついてまいりますわ。
そもそも魂のみならず、わたくしたちの身体を流れる血潮も内臓も、その起源をたどれば生命の源流から滴り落ちたものにほかなりません。
源流と現実を橋渡しする器官として、心臓ほどふさわしい媒介はございませんわね。
②夢の領域に深く干渉する力《夢見の力/ドリームネイル》
『神の家』の試練を進めておりますと、青き扉に見えることができます。
こちらの扉もまた”縛り”という試練を乗り越えた者のみに光を灯し、青の幻想領域への入室を許す仕掛けですの。
その仕組みは、アビスの青き祠と同質のものとお考えになってよろしゅうございますわ。


そして、根の先に灯る青色の夢にドリームネイルをあてることによって、『神の家』という領域の中に青き繭を実らせることができますのよ。
封じられた扉の夢のヴェールを押し開いたその奥から、青き繭は姿を現し、まるで夢の深層から召喚されたかのように形を結びますわ。


生命の血を触れられる状態にするには、ただ夢を見るだけでは不十分でしてよ。
夢の領域、さらにその奥――幾重にも重なりあう深層の夢にまで干渉できる者のみが、生命の血を限界させることができるのですわ。
《北欧神話》オーディン――自己犠牲による変換
ここまで《生命の源流》が《生命の血》へと変わるためには、次のふたつが不可欠であると仮説を立ててまいりましたの。
- 物理的な変換装置
- 夢の領域に深く干渉する力
少々突飛に映るかもしれませんけれど《心臓》と《夢》によって《世界の根源たる力》を《人が扱いうる力》へと転換する構造は、古来より多くの神話に刻まれておりますのよ。
たとえば、北欧神話のオーディンの逸話が有名ですわ。
世界樹ユグドラシルの根元、地中深くにある《ミーミルの泉》には”知恵と記憶・宇宙の理・未来”といった原初の知識が宿っております。
オーディンはその力を現世の力(ルーン)へと転換するために、右目を捧げ、さらに心臓を貫かれたまま九日九夜の深き眠りへと沈みました。
源流の力が心臓と夢を通って使用可能な力に変わるという、生命の血の仕組みと驚くほどよく似ておりますでしょう?


ほかにも、グノーシス主義では霊的世界から力を受け取る器官として“心臓”が、古代エジプトでは原初の生命エネルギー(カー)が心臓で変換され、現世の血肉(バー)へと転じると語られておりますの。
こうした神話伝承とゲーム内の描写を重ね合わせますと、《生命の源流》が《生命の血》となるための条件が、よりくっきりと浮かび上がってまいりますわ。
- 物理的な変換装置《脈打つ心臓》
- 夢の領域に深く干渉する力《夢見の力/ドリームネイル》
肉体の犠牲と世界の層をまたぐ力――このふたつが揃ってこそ、世界の根源に触れることが成し得るのでございます。
- アビスの青き祠で『生命の源流』は『生命の血』へ変換される。
- 生命の血に変換するには、①脈打つ心臓 ②夢の領域に深く干渉する力 のふたつが必要。
ジョニが背負うもの|それは祝福か、呪いか
チャーム『ジョニの祝福』の記述によれば、ジョニは《生命の源流を生命の血へ変換》できる特異な存在でございます。
Blessed by Joni, the kindly heretic. Transfigures vital fluids into blue lifeblood.
お嬢様的意訳:優しき異端者ジョニの祝福により、生命の流体を青き『生命の血』へと変化させることができます。
この一文が意味するところは明白でしてよ。
ジョニはすでに① 脈打つ心臓に相当する“変換器官” ② 夢の領域へ深く干渉する“精神的な力” このふたつを兼ね備えているのでございます。
では、いまこの瞬間──ジョニの身に何が起こっているのか。
彼女の現状を、ここで整理いたしましょう。
ジョニが捧げた『生命の核』


Joni might be dead, but she’s still quite happy.
お嬢様的意訳:彼女は既に亡くなっているかもしれませんが、まあまあ幸せそうにしておりますわ。
ー Team Cherry(→)
制作者はジョニの生死を「亡くなっているかも」と、あえて曖昧に語っておりますわ。
ジョニが物理的な変換装置――《脈打つ心臓》を所持しているならば、それはもちろん、自身の心臓にほかなりません。
けれど現実世界の肉体はすでに沈黙しているご様子。
であれば、彼女の心臓は別の領域で静かに鼓動していると見るのが自然でございましょう。
ジョニも招かれたであろう、青き祠。
青き夢の領域、その最奥に、生命の血を滴らせるチャーム『生命の核』はございます。


この『生命の核』こそが、夢領域に生きるジョニの心臓であるという可能性――それもまた、決して否定できませんわ。
青き夢のドリーマー
ジョニが眠る祭壇と夢見の守護者が眠る祭壇は、まったくといっていいほど同じ形をしております。


この二段の祭壇装置は、わたくしたちの世界の宗教建築・葬送建築にも広く見られる構造ですの。
共通して、肉体と精神を分離し、別々の層として扱うための装置でございます。
下段を肉体(現実世界)の層、上段を精神や魂(精神世界)の層として扱われておりますわ。
そして上段に安置された遺体・遺物は、次のような特性を帯びるとされています。
- 現実世界と精神世界をまたぐ境界の存在となる。
- 眠り=霊的な役割の発動状態である。
- 肉体の死後も、それは機能する。
これはまさに、夢見の守護者そのものではなくて?
であればジョニも夢見の守護者のように、現実と夢の境界に立つ存在として、何らかの役割を果たしていると考えられましてよ。
彼女が偶然流れ着いたのか、あるいは青き夢の導きによって導かれたのか――それはまだ、霧の中にございます。
けれどジョニは、脈打つ心臓を持ち、夢と現実のどちらにも干渉できる者。
その小さな体で、生命の血を現実世界へと送り出す“青き夢のドリーマー”という、大いなる役割を背負っているのではないかしら。


現実ではなく夢の領域に身を置き、心臓を捧げてなお、生命の血を流し続ける――それが青き子供ジョニの、現在の在り方でございます。
彼女はそれを《祝福》と呼んでおりますけれど、果たしてその献身は、本当に“祝福”と呼ぶべきものなのかしら。
とはいえ、Team Cherry の「亡くなっているかもしれないが、まあまあ幸せそうにしている」との言葉を思えば、彼女にとっては現世こそが耐えがたい場所だったのでございましょう。
まとめ|捕食者ジョニ ―生命の血に心を捧げた、青き夢のドリーマー―
本記事では、青き子供ジョニについて考察いたしました。
ジョニは心の優しい肉食のオサムシで、誰かを傷つける代わりに、生命の血を口にして生きていた。
大量の生命の血を摂取した彼女は無我の境地――自我の境界が薄れ、世界と融合――へと辿り着き、世界の根源《生命の源流》に触れられる存在となる。
そして脈打つ心臓と夢領域への干渉力を備えたことで、源泉を生命の血に変換できる”青のドリーマー”となった。
心の優しい、小さなオサムシ。
彼女は今もなお、誰かのために、青き血を流し続けているのでございますわ。


ここまで、ひとつの仮説を紹介いたしました。
お楽しみいただけたなら幸いですわ。



それでは、また別の記事でお目にかかりましょう。
ごきげんよう。









